仙台箪笥は3つの職人技の結晶

仙台箪笥指物職人

木地が支える強さ

箪笥の基本となるのが指物。長い間使い続けるものだからこそ、寸分のゆがみやくるいを許さない本体、スムーズな開閉の引き出しといった、実用の機能や強さが必要不可欠です。指物師は木のクセや性質を見抜き、木取りから組み立てまで一貫して担い、ベースを仕上げ。見えないところまで凝らした細やかな技で長い愛着に応える箪笥を生み出しています。

仙台箪笥指物職人-増野繁治
職人file ①
仙台箪笥指物職人

木香舎

仙台箪笥指物職人-増野繁治

私は、人間国宝でもある木漆工芸作家 黒田辰秋の作品や彼の姿に憧れて家具職人をやろうって思ったんです。彼はね、誰もやらないような木工デザインで椅子や家具を作り、気品高い皇族の人たちも納得する価値ある物を作ろうとしていた。彼の目指す世界やその姿が、素晴らしいと思った。

当時の私は、大きいものを作りたくてね。東京中の人間国宝を回ったけれど、当時大きいものを作ろうとする人は誰もいなくて。だから、高校卒業後に仙台に来たんです。仙台には高価で大きな仙台箪笥があったから。それが、職人になったきっかけです。

指物(家具)の技術自体は、仙台で学んだというよりは、東京で人間国宝の技術を実際に見て、どうやったら早く出来るか?ということをすぐ実践してきました。
箪笥って大きいから、私は如何に機械を使って早く造るかっていう方に目を向けるべきだって思ったんです。私は合板を一切使わず、自分で丸太を買い付けて制作していますが、本物を守っていくという姿勢が大事なのかなと。こだわりって言うのは大きなこだわりとかでなくて、私は基本的なことを守っていくってことだと思っています。
材料が美しければ、価値のあるものになる。指物っていうのは、歴史的に価値が高いし1000年以上平気で持ちますからね。

実はね、始めた当初は4~5年修行したら東京に帰ろうって決めてたんです。親も兄弟も住んでるところに戻ろうってね。だけど、ここで暮らしていくうちにこんなに素晴らしい仙台箪笥を、このすばらしい伝統的文化を残さなくちゃいけない。そう思うようにました。だから、今はこの仙台箪笥だけは絶対に守ろうと思っています。

仙台箪笥指物職人-髙橋茂治
職人file ②
仙台箪笥指物職人

みちのく工芸

仙台箪笥指物職人-髙橋茂治

職人になったきっかけは、学生時代のマラソン大会でたまたま私が一番になったことからかな。その時、ある家具屋さんから賞品に机を貰ったんです。そこの社長からあの子が欲しいって言われてね。昔からものづくり自体は好きで、よく学校の工作とかでつくっていたし先生も勧めてくれたしね。それでそのままこの道に進みました。

仙台箪笥を造るのには、一番は材料が大切。その材料の大事な見分けが出来ないと駄目なんだよね。将来狂うのか、狂わないのか、そういう素質の見分けが本当に大事になってくる。
私はね、ほんとに家具だけなんですよ。一筋っていうかね。やっぱりいいものっていうのは、何かを教えてくれる、見出してくれる。何世代にも渡って言葉が飾らなくても、お爺ちゃんやお婆ちゃんが使ったとか、使い継がれていくことで気持ちが伝わるじゃないですか。仙台箪笥は間違いなく500年以上は持ちますよ。

素材は、山の原木からこだわっていますね。私が30代前半頃に、将来自分が思った通りの箪笥を造ってみたいという思いがあったので。だから山にも行きます。福島、古川、岩手、山形とか。家具以外では、神社のお賽銭箱とか・・・寺の雛壇とかも造りました。何世代にも渡って使い継がれることで、その箪笥の価値は特別なものになると思います。今の若い人たちが、三世代、四世代、五世代…と世代を超えて私の造った箪笥を引き継いでいくことで、家族の想う心を繋いでくれたらなって思います。そうじゃなきゃこの歳までこの仕事を続けられないですよ。この想いがあるからこそ、お客さんが喜んでくれる姿を見れる事が一番の幸せです。

仙台箪笥指物職人-関谷周一
職人file ③
仙台箪笥指物職人

村の家具屋 木響

仙台箪笥指物職人-関谷周一

田舎育ちな僕は、山林が身近でした。学生の時、山林間伐をしていないことで自然災害が起きやすくなっているという環境問題の話を聞いたんです。そこから、自分の家の山林や、里山の管理について調べるようになって。そのうち、木の付加価値を高めるために何かできないか?と考えるように…、それで工芸を始めたんです。それをきっかけに、自然と複数の職人が関わる共同職でもある仙台箪笥に関わる機会をもらいました。だから、最初から家具に興味があった…というより、木を使うことに興味があった、っていう感じですね(笑)

僕は、特にこだわりというものはなく、ケースバイケースで柔軟に考えるようにしています。ただ、ホントこだわっていることと言えば、合板は使わずに出所がはっきりしている木材をつかうことです。違法伐採とか、そういうものは一切使わない。自分の手の届く範囲で採れたものだけを使っています。

どこに行ってもそうなんですが、その土地、土地で色があって、そういったものを自分でも出したいなって思うんです。やわらかい木の良さもあれば、硬い木の良さもある。
なかでも栗の木は扱いやすいのでよく使います。仙台箪笥にも栗の木が使われているんですよ。栗は縄文時代から使われている木で、1万年前からずっと人の生活に寄り添ってきた木です。太さも様々なので、細いものでも椅子などとして使っていきます。そうやって消費しながら、山も育てながら、循環しながら、やってこうっていう流れは意識しています。

僕自身、こだわりに縛られるのが嫌なので、その時代に必要とされるものを造る、その素養さえあればいいんじゃないかと感じていますね。